よくみえるってどういうこと?

あいかわらず誰の役にもたたないだろう日記

作家たちの声を聴け

3/1(金)

村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会』へ。

学生無料分瞬殺は想定内として、寄付金必須の一般参加券も数日で売り切れ(寄付最低受付額が15000円、法人は30万円以上。の設定にはじゃっかん引いたけれど。早稲田にご縁があって謝意を強くお持ちの御仁なら抵抗ないのかもしれんが、春樹ファンで早大OBOGのブッククラブメンバーもそろって「たか!」ゆうてたで…。法人枠は30万円で2名ご招待とかいう文字列の強さも)、この夜の大隈講堂はことさらにぎわっていた。

1階10列目中央部。初生春樹の印象は「おじいちゃんだけど姿勢よくてかっこいい。体づくりは大事ね」。鳥肌立つとか泣くなどとくになし。ミエコはいっそう美しく、深いスリットの柄ドレスはステラ・マッカートニー(ご本人のインスタより)。華麗な足さばき、うつむく角度の完璧さ、つやつやボブをゆらす笑顔、チャーミングな発言、セルフプロデュース能力の高さを叩かれがちな彼女だが、ここまで仕上げられりゃ褒めしかなかろう(もちろん私はいつものごとくキレー! つって見入るのみ)。

「大作家ふたりが、本人以外しらないピチピチの書下ろし短編を読み下ろす!」ってんでしつこく録音録画禁止令がくりかえされたのち、会は始まり、ミエコが「あお×あお」を朗読。

一切詰まらず、一語もかまない。アナウンサーや俳優でもなかなかできない芸当をやってのけたうえ、ときに顔をあげ会場に目をやりながらの「読み」。かっけえ~。黙読より言葉がひとつひとつ立って届くことに驚く。

春樹の一発目はなんと「新作前編」だった。旧(既刊)新一編ずつの予定が、思いのほか書下ろしが長くなってしまったため前後編わけて朗読するという。にくい。うまい。ファンはうれしい。

彼の朗読は生っぽかった。咳き込んで中断したり、ページをめくる際トーンダウンしたり。そこがまたいいのだけれど、しょっぱなから若い女性の容貌こきおろし」描写。出た! ハルキスタイル。80年代から続くお家芸だが、ソファで優美に脚を組むミエコの胸中やいかに…(自身は即!「げえ~」反応)

ほどなく<見た目をひどい言葉でジャッジするアウトさの「真意」>は明かされるのだけれど、それにしても。後編をきいたあともなんだか釈然としなかった私。

詳細をネットに載せるべからず、という運営の意思(=作家の希望)に則ってこれ以上かきませんが、結局「顔」の獲得は「若い女」の行動の結果でしょ? 投げた側の責任は?「端正な顔立ちの謎めいた男」(←十八番)の愉快犯行為にはお咎めなし?

とはいえ。おもしろさに隙はなく、編集や校正を経てさらにスマートな作品に磨き上げられる原石がこの完成度ってのは。ぎりぎりまでめっちゃ推敲したんだろうな~プロだもんな~プライド高そうだもんな~。

で。ふたつ目の朗読前に、小澤征悦さんの『ヘヴン』『風の歌を聴け』の朗読と、村治佳織さんのギター演奏が挟まれたのだ。

「ミッシェル」の、場との異常な親和性。バカの感想にて恐縮だが、木造アパートのベランダでぴったりしたニット着てセンターパーツのロングヘアゆらしてこんな風に弾けたら。昭和か。学生運動か。いやまさにそういうアレですから。

小澤さん(遠目にはラーメンズ片桐似)の「鼠」は、元気よすぎて逆におもしろかった。そんだけ声張れる明るい青年なら羊に狙われないだろ…!

とかなんとかの茶化しも感動の一部、とてもとても楽しかった。優れたひとの優れた表現は心と身体によい。春樹の小澤征爾氏への思いも、飾らないエピソードから存分に伝わってあたたかな笑いを呼んだ。「父の友人の小説を、本人の前で朗読」というかなりキてる状況も、ミエコが何度も口にした「親密な会」では至極自然に成立しており。

閑話休題。私にとっての真打、ミエコの新作読み下ろしよ。

これがまあ〜すばらしくて! 最近の彼女のテーマど真ん中、「不安定な暮らしを続ける高齢女性の疲弊と孤独と絶望と連帯」を最新の筆でぎゅぎゅぎゅっと詰めて書き上げた胸アツ作品。

「私」が一晩中ノックし、されているようだった。泣いているのに。泣いていたのに。壁を挟んで。

大大大好き!  川上さんは本体もだけれど、まじで作品が好き。あの小説をかいたご本人が、見渡す誰より美しい「彼女」ですよ! 極上の朗読をする壇上の女性なんですよ! と、嫉妬だか暇だかしらねえが彼女に粘着し続けるクソどもにいってやりたくなったね。

ミエコのあらわれるところには、毎度お化粧やダイエットや流行を愛する女子が少なからず集まるのだけれど、この夜も元文学青年や批評家気質っぽい壮年男性に混じって、めっちゃまつ毛増やした顔つるつるの若い娘さんを何人もみかけ、そこも愉快だった。

誰もがそれぞれの地獄を生きている。ときどき救済の夜に出会えたりもする。